僕に必要なのは机だった

僕が煙草を吸いながら考えていたことは、この部屋に足りないものは机なのではないかということだった。それに思い至ると、机以外の何物でもないように思えてきた。僕に必要なのは机だった。それだけのこと。そう思えた。
特に何をするでもなく、日々を擦り減らして、生きているだけのように思えた。それはおそらく思い込みだった。けれど、一度そう思うと、そのように思えた。それだけのこと。そう思えた。
机を買おう。僕は思った。天板と脚は細い線で繋がっていて、横から見ると華奢に見える机。幅が広く、奥行きは無いが、僕のしたいことはそこまで大きなスペースを必要とすることでもないし、それで充分に間に合うだろう。
あとは、どこに置くかだ。僕は部屋の中で机が収まりそうなところをいくつか考えてみた。いや、いくつかではなく、かなり真剣に考えた。僕に必要なのは机だった。だから、それがどこに置けるかをありとあらゆる視点から考えた。この部屋に机は置けない。それが、考え抜いた僕の結論だった。この部屋に机は置けない。
そう考えると何故か僕は泣きそうになった。僕に必要なのは机だった。そして、この部屋に机を置くことはできない。僕は途方にくれた。そして、この部屋に足りないもののリストの中から、机という項目を消した。そして、僕に必要なのは机だった。